院長ブログ

うつの移ろい

2019.08.23

 最近では、一般の人の会話でも「うつ病」という言葉が自然に聞かれるようになりました。うつ病がけっして特別な精神病ではなく、誰でもなりうるありふれた病気と認識されるようになったのは望ましいことです。ただ、気分が落ち込めば誰でも「うつ病」と呼ばれてしまう現状を見ると、やはりどんなうつ病かを丁寧に診断して、それにふさわしい治療を考えるべきだとは思います。
 二十世紀末までは、原因不明の「内因性うつ病」がうつ病の中核と見なされていました。これは、心身の機能が空回りして動かなくなった状態(「生気的抑うつ」)であり、朝悪化し夕に改善する抑うつ気分と早朝覚醒と食欲不振が特徴です。心身の機能は昼から夕方にかけて現実生活に合わせようとして通常に近づくのですが、睡眠中に現実から離れることでうつ的空回りによる緊張状態が強くなって早朝にはっと目が覚めてしまい、その瞬間に最悪の落ち込んだ気分を味わうことになる、ということを日々繰り返しているのだろうと想像しています。この病態は、古いタイプの三環系抗うつ薬が有効です。
 じつはDSM-5分類のうつ病の診断基準の中にも「メランコリア」として、この内因性うつ病の特徴が記載されているのですが、あまり話題にされません。「今こそ、内因性うつ病を見直そう!」と言いたいところですが、若い精神科医はもちろん中堅の精神科医でも内因性うつ病のことはよく知らず、理解がばらばらなのです。つまり、内因性うつ病そのものがあまり見られなくなっているようなのです。
 内因性うつ病の人の性格は、「メランコリー親和型」(Tellenbach 1961)といって、社会秩序を厳格に守ろうとする傾向があると言われています。逆に見れば、守るべき秩序があれば、どんなに大きなストレスがあってもぎりぎりまで持ちこたえることができ、一旦破綻してしまえば内因性うつ病という心身を巻き込んだ重篤な状態になってしまうのかもしれません。そうすると、秩序というものがそもそも成立しにくくなった現代では、小さなストレスでも容易にうつ状態になってしまうと考えることもできます。仕事には行けないけれど週末は楽しめる「新型うつ病」は、その典型なのでしょう。
 これからは、うつ病はストレス性疾患に近づいていくのかもしれません。さまざまなストレスにいかに対処するかということが、私たちの当面の課題になりそうです。